残 像
予期された出来事のように
ある日 線路がなくなった
秀才も 不良も
勤め人も 旅行者も
あの線路の上を
平等に揺られて走ったのだ
六十一年の歴史とともに
駅舎は廃墟への道を辿るのか
明かりが消えたように
六十一年のはかない夢が消えた
いや 消えたのだろうか
いま一度 駅舎の明かりを
明かりを灯す夢を
置き去りにされた線路は
栄光への夢を 断ち切られた
残像のように 横たわり
死への道を形造る
駅舎に明かりを 置き去りの線路に栄光の葬送を
大 地
獲物を捉まえた
鷲の足のように
校庭の土をがっしりと抱え込む
幹よりも根っこを
荒々しい根っこの凹み
腰掛けるにふさわしい凹みだ
大らかだったあの枝も
台風に吹き折られた
人の命よりも大きくて永い樹齢
親父の胡坐にも似て
腰掛けるにふさわしい凹みこそは
親父の温もりの伝わる凹みだ
校庭の栴檀と樟
手にかすかな
親父の温もりの伝わる樹齢