◎詩集『巨木の下で』~小辻清行

   残  像

予期された出来事のように

ある日 線路がなくなった

秀才も 不良も

勤め人も 旅行者も

あの線路の上を

平等に揺られて走ったのだ

 

六十一年の歴史とともに

駅舎は廃墟への道を辿るのか

明かりが消えたように

六十一年のはかない夢が消えた

 

いや 消えたのだろうか

 

いま一度 駅舎の明かりを

明かりを灯す夢を

置き去りにされた線路は

栄光への夢を 断ち切られた

残像のように 横たわり 

死への道を形造る

 

駅舎に明かりを 置き去りの線路に栄光の葬送を


   大 地

獲物を捉まえた

鷲の足のように

校庭の土をがっしりと抱え込む

 

幹よりも根っこを

荒々しい根っこの凹み

腰掛けるにふさわしい凹みだ

 

大らかだったあの枝も

台風に吹き折られた

人の命よりも大きくて永い樹齢

 

親父の胡坐にも似て

腰掛けるにふさわしい凹みこそは

親父の温もりの伝わる凹みだ

 

校庭の栴檀と樟

手にかすかな

親父の温もりの伝わる樹齢